わたしの好きな色はオレンジ色
健康的だったり、可愛らしかったり、温かかったり、とにかくいいイメージがたくさんあるから
それともう一つ、オレンジ色はわたしにはレトロな色にも感じられることが多い
看板やひさしやライトなど、古い洋食屋や喫茶店で効果的に使われたオレンジ色をよく見かけるせいだろうか
ペルルはまさに、わたしにとってはオレンジ色の喫茶店だった
初めて見かけた時の高揚感は今も忘れられない
階段を駆け上がり、そのオレンジ色の空間に飛び込んだ
オレンジのペンダントライト、レースのカーテン、造花を絡めたパーテーションなど、まさに喫茶店の様式美
とりわけ窓際の席が素敵だと思ったのだけれど、一人で占領してしまうのは憚られたので壁際の小さい席を選んで腰掛けた
真夏へ向かって準備を始めたかのような6月の日差しが体に堪えたが、よく効いた冷房のおかげでペルルは快適な空間だった
ソーダフロートを飲んでさらに涼やかな気分
アイスクリームのシャリシャリした口当たりが懐かしい感じがした
素敵なお店だな、好きだな、と思いつつも、ペルルはわたしにとっては少し行きづらい場所にあって再訪は先延ばしになっていた
それでも、次に訪れる時が閉店の時になるとは考えもしなかった
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思い立って再びペルルへ足を運んだのが、前回からちょうど一年が経った頃だった
すると入口の扉には「立ち退きの為、今月いっぱいで閉店いたします」と書かれた張り紙がされていた
ええっ!?と驚いて店内を見渡してみると、昼下がりののんびりを満喫する大勢の人
張り紙の衝撃と、お客たちの自然で当たり前な風景との差がわたしにとってはあまりに激しく、オロオロしたまま席に着いた
ハムサンドもコーヒーも美味しいのだが、いまいち気分が晴れない
そうこうするうちに一人、また一人お客が帰って行き、わたしだけになった
最後はマスターとゆっくりお話できた
「ビルごと買い取れたらなあ」と、屈託なく笑うマスター
マスターの都合ではなく、ビル側の都合の閉店なのでやりきれない気持ちもあるだろう
それでもマスターはわりと明るくあっけらかんと話すのでわたしのオロオロした気持ちも徐々に無くなっていったのだが、会話の中で何度か聞かれた「本当はもっと続けたいけどね…」という言葉はやはり切なかった
当然だけど、さみしいのはわたしやお客だけでなくマスターだってそうなのだ
わたしの大好きなオレンジ色の喫茶店、ペルル
お疲れさまでした
ありがとうございました